三品・一補・一執職による共同体の奉仕構造

教会における奉仕のかたち

 教会は、すべての信徒がキリストの体に属する「神の民(People of God)」です。それぞれの信徒が、洗礼により召され、祈りと聖奠に生き、福音を証しする生き方へと導かれています。

 この召命は、単なる役職や任務ではありません。それは、神から与えられた賜物と召しに応えて、共同体の中で愛と祈りをもって仕えること—すなわち「奉仕(Ministry)」としての霊的実践です。すべての奉仕職は、この信徒全体の普遍的召命のうえに築かれています。

 一方で、教会は歴史と制度を有する可視的共同体でもあります。礼拝と教理の保持、共同体形成、社会的証しといった務めを果たすには、秩序ある構造が必要です。この奉仕秩序は、長い祈りと経験を通じて形づくられてきたものであり、今もなおその本質は、神の民としての交わりと使命に根ざしています。

奉仕の秩序:三品・一補・一執職

 自由と友愛の独立アングリカン教会は、アングリカン(聖公会)の伝統に則り、教会における奉仕の秩序を以下の三つの聖職と二つの補助的奉仕職によって明確に制度化しています。

▪︎ 主教(Bishop
▪︎ 司祭(Priest
▪︎ 助祭(Deacon

▫︎ 補祭 伝道師(Subdeacon / Evangelist ・ Reader
▫︎ 執事(Churchwarden

 この体系は、「三品(Three Holy Orders)・一補職(Auxiliary Ministry)・一執職(Lay Office)」として位置づけられています。それぞれの奉仕は、階層的な支配関係に基づくものではなく、それぞれの召命に応じて相互に補完しつつ、祈りと福音の奉仕に生きる秩序として整えられています。

※本教会においては、「Deacon」の訳語として「助祭」を正式に採用しています。これは、「執事」という語が既に教会役員(Churchwarden)の職名として用いられていること、ならびに「仕える者(ディアコノス)」としての聖書的・神学的意義を忠実に反映する語として、「助祭」がより適切であると判断しているためです。

三品(Three Holy Orders

主教:教会の一致と使徒的信仰の担保者

 主教は、教会における最も古い奉仕職の一つであり、使徒的継承(Apostolic Succession)を体現する者です。主教の務めは、聖奠と教理の正統性の保持、聖職者の按手と認可、地域教会の統合と祈りの交わりの促進など、教会全体の一致を担保する働きにあります。

 この役割は、単なる監督を超えて、教会の福音的使命における象徴的・実質的な責任を伴うものです。

司祭:共同体に仕える牧者

 司祭は、地域教会において礼拝と聖奠、御言葉と魂の養いを通して信仰共同体を導く者です。主教による按手を受け、以下のような役割を担います。

▪聖餐・洗礼・病者の祈り・葬儀などの聖奠執行
▪説教・聖書教育・霊的指導
▪共同体の牧会的ケア

 司祭は、祈りの共同体の中心に立ち、福音に生きる群れを養う霊的な牧者としての使命を与えられています。

助祭:奉仕に生きる福音の証人

 助祭は、奉仕と社会的証しを担う聖職であり、「仕える者(diakonos)」としての原初的な召命を保持しています。初代教会において社会的弱者に仕えた原型に基づき、以下の働きを果たします。

▪礼拝における朗読、説教、祈祷の奉仕
▪洗礼・婚姻・葬儀等の司式(※聖餐の司式は除く)
▪教会外との橋渡し、社会奉仕

一補(One Auxiliary Ministry
▫︎補祭 伝道師:礼拝と宣教を担う奉仕者

 補祭 伝道師(Subdeacon / Evangelist ・ Reader)は、本教会において三品(主教・司祭・助祭)に準ずる公的奉仕職として制度化された補助職(Auxiliary Ministry)です。この職は、以下の三つの伝統的職制の霊性と責任を併せ持ち、現代の教会共同体における礼拝と宣教の継続に大きく寄与します。

▪︎ 補祭(Subdeacon
 補祭は、古代・中世の典礼において、助祭を補佐し、聖書朗読や奉献、祈祷などに従事した伝統的非按手職です。
 本教会においては、補祭を非按手の礼拝奉仕職として制度的に受けとめ、伝統のみにとどまらず、現代における礼拝共同体の持続的形成の要として重視しています。

▪︎ 伝道師(Evangelist
 伝道師は、御言葉を携え、教会の外に向かって出ていく者です。家庭訪問、病床、災害・社会的困難の現場において、人々と共にあり、証しをもって福音を分かち合う者として召されています。
 本教会は、現代社会の疎外・分断のただ中にあって、公共的霊性を体現する職責として伝道師の役割を再評価しています。

▪︎ 朗読者(Reader
 朗読者は、主教の認可を受けて、礼拝における聖書朗読・説教・祈祷を公的に担う信徒奉仕職です。イングランド聖公会(The Church of England)をはじめとする各地の聖公会において、広く制度化されてきた伝統を受け継ぎます。
 本教会では、朗読者の奉仕を「補祭 伝道師」に統合し、典礼奉仕と宣教的実践の双方に生きる職として理解しています。

▪︎ 恒常補職(Permanent Auxiliary Ministry)としての位置づけ
補祭 伝道師の奉仕職は、「三品への移行のための段階」ではなく、それ自体が固有の召命と霊的責任を帯びた職です。そのため本教会では、補祭 伝道師を恒常補職(Permanent Auxiliary Ministry)として明確に位置づけ、生涯にわたって祈りと宣教に仕える職として制度的にも霊的にも重んじています。

アンテ・コミュニオンにおける典礼奉仕

 補祭 伝道師の典礼的役割がもっとも顕著に発揮されるのが、「アンテ・コミュニオン(Ante-Communion)」の執行です。これは、聖餐を伴わない御言葉と祈りの礼拝形式であり、司祭が不在の場における公的礼拝を可能にするものです。

 補祭 伝道師は、この奉仕において以下の役割を担います。

▪御言葉の朗読と説教
▪礼拝の祈祷と祝福の導き
▪会衆の共同祈願の取りまとめ
▪典礼全体の霊的秩序の維持

※詳細については、特設ページ「アンテ・コミュニオンとは何か」をご覧ください。

 このように、補祭 伝道師は、祈りの共同体が司祭の常駐しない地域でも礼拝生活を維持できるよう支える存在として、現代の聖公会における重要な奉仕職であるといえます。

一執(One Lay Office
▫︎執事:制度と共同体の歩みを支える信徒奉仕

 執事は、主教や司祭とは異なり、按手を伴わない信徒の責任職(Lay Office)ですが、教会の制度と現実的生活の運営において、最も実務的かつ霊的な責任を担う奉仕職です。

 その役割には、教会財産の管理と建物の維持、会計・記録などの実務支援、礼拝や会合の実施調整、主教・司祭・信徒の協働環境の整備などが含まれます。

 中世イングランドに起源をもつこの職は、今日においても多くの聖公会で重要な制度的支柱とされており、本教会においても「一執職」として制度的に明確に位置づけられています。

ともに仕える教会へ

 本教会の「三品・一補・一執職」の奉仕秩序は、歴史的伝統と現代的責任の双方に根ざしています。主教・司祭・助祭の三品は、礼拝と教理の中心を担い、補祭 伝道師は礼拝と宣教の現場において霊的奉仕を果たし、執事は制度と生活の土台を支える—それぞれが協働することで、教会は神の民としての交わりを形成します。

 この秩序は、教会が制度化されていく過程で生まれたものではなく、祈りのうちに育まれた奉仕の形そのものであると、私たちは理解しています。それぞれの召命が互いに仕え合うとき、そこにこそ福音の現実が立ち現れるのです。